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低廉な空き家等に関する媒介報酬規制の見直し(2024年7月施行)

近年、日本全国で空き家の増加が深刻な社会問題となっています。人口減少や少子高齢化、地方離れなどの影響により、特に都市部以外の地域では利用されていない住宅が放置され、景観や治安、防災面でも悪影響を与えるケースが増えています。

このような状況に対応するため、国土交通省は2024年7月1日より、低廉な空き家等に関する媒介報酬(仲介手数料)の規制を見直しました。これにより、宅地建物取引業者(以下、宅建業者)は、一定条件下において従来よりも高い報酬を受け取ることが可能となり、空き家の流通を促進する環境が整備されました。

改正の背景

空き家は単に使われていない不動産というだけでなく、防犯・防災の面でも周辺住民に悪影響を及ぼす存在です。雑草の繁茂、建物の老朽化、害虫の発生などが問題となる一方で、相続後の売却が進まず、放置されるケースも少なくありません。

また、取引価格が極めて低い空き家の場合、宅建業者にとって仲介報酬がわずかしか得られず、積極的な取扱いを敬遠する傾向も見られました。この点が空き家の流通を阻害する大きな要因となっていたため、今回の法改正により制度的な後押しがなされることとなったのです。

従来の媒介報酬規制の課題

宅建業者が売買の媒介業務において受け取れる報酬(仲介手数料)の上限は、従来以下のように定められていました。

  • 取引額200万円以下の部分:5.5%
  • 200万円超~400万円以下の部分:4.4%
  • 400万円超の部分:3.3%

この規定に基づくと、たとえば取引価格が300万円の物件であれば、売主・買主いずれか片方から受け取れる仲介手数料は約13.2万円にとどまります。さらに、双方から受領できたとしても26.4万円となり、物件調査や書類作成、現地案内などの手間を考えると、十分な対価とは言えませんでした。

2024年7月施行の新制度概要

今回の見直しでは、売買価格が800万円以下の物件を対象に、媒介報酬の上限額に特例が設けられました。

具体的には、以下の条件を満たす取引においては、売主・買主の双方からそれぞれ最大33万円(税込)まで、合計66万円までの仲介手数料を受領することが可能となりました。

  • 対象となるのは売買価格が800万円以下の物件
  • 建物の使用状況(空き家か否か)や構造、築年数は問わない
  • 宅建業者が媒介契約締結時に依頼者へ十分な説明を行い、書面で承諾を得る必要がある

この見直しによって、特に低価格帯の空き家の売却や購入を希望する顧客に対して、宅建業者がより積極的に対応しやすくなりました。

業界への影響と今後の期待

今回の報酬規制緩和は、空き家対策の一環として非常に効果的であると期待されています。宅建業者にとって、これまで採算が取れずに後回しにしていたような案件にも取り組むインセンティブが生まれたため、今後は地方や郊外にある古家付き土地などの取引がより活性化する可能性があります。

また、空き家所有者にとっても、これまで以上に相談先が増えることで、放置によるリスクを回避しやすくなります。売却を検討するハードルが下がり、地域の防災・景観対策にもつながることが期待されます。

さらに、買主側にとっても低価格物件の情報が市場に出回りやすくなるため、リノベーション目的の投資や田舎暮らしを希望する層の選択肢が広がります。

実務上の注意点

宅建業者がこの特例を適用するためには、いくつかの留意点があります。まず、通常の仲介手数料率による算出額と、特例上限額との比較を示し、どちらを適用するのかを依頼者に説明しなければなりません。

また、33万円という上限は「税込」である点にも注意が必要です。業者が独自に設定する成功報酬体系との整合性も考慮し、誤解を招かないように説明責任を果たすことが求められます。

さらに、媒介契約書や重要事項説明書への記載漏れ、報酬額の根拠説明の不足などがあると、後のトラブルの原因ともなり得ます。実務上は適用条件を満たす物件かどうかを丁寧に確認したうえで、依頼者とのコミュニケーションを密に行う必要があります。

まとめ

低廉な空き家の媒介報酬規制の見直し

  • 空き家の流通促進を目的に、2024年7月より媒介報酬規制が見直された
  • 売買価格800万円以下の物件において、売主・買主双方から最大33万円(税込)ずつ、合計66万円まで受領可能に
  • 建物の状態や築年数は問わず、空き家でなくても対象になる
  • 宅建業者は依頼者に対して十分な説明と書面での承諾取得が必要
  • 業界全体で空き家の取扱いが活発化することが期待されている
  • 実務では説明責任や書類対応など、適切な運用が求められる

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