建設業を営む会社の経営者の中には、「自社の施工ノウハウを活かして不動産業にも参入したい」と考える方が増えています。特に近年では、建売分譲や中古住宅のリノベーション販売、さらには収益物件の保有・運用といったビジネスチャンスが広がっており、建設と不動産のシナジー効果に注目が集まっています。
このような場面で多くの経営者が迷うのが、「既存の建設会社の中で不動産業を始めるべきか?それとも新たに不動産会社を設立すべきか?」という点です。
結論から言えば、不動産業を始めるなら新設法人を立ち上げることが得策です。以下、その理由を税務・会計・経営の視点から詳しく解説します。
事業リスクの分散による会社全体の安定化
建設業と不動産業は、同じ「不動産関連業種」であっても、リスクの性質が大きく異なります。
- 建設業:工事請負に伴う債務保証・瑕疵担保責任・長期契約
- 不動産業:物件の在庫リスク・売れ残り・価格変動リスク・借入過多
これらのリスクが混在してしまうと、1つの事業の失敗が会社全体に波及する危険性があります。特に、不動産業は物件取得に伴う高額な融資や資金繰りが絡むため、会社全体の財務に与える影響が非常に大きくなります。
新設法人であれば、不動産業に伴う財務リスクを切り離すことができ、万が一の際にも建設業の本体を守ることが可能です。これは金融機関に対しても安心材料となり、融資審査にも好影響を与えます。
節税効果と利益調整の柔軟性
法人を2つに分けることによって、所得の分散と利益調整による節税が可能になります。たとえば以下のような場面で効果を発揮します。
- 建設業の法人と不動産業の法人で利益の出方が偏る場合、それぞれに法人税の軽減税率を適用できる
- 親会社から子会社への業務委託や物件売却などを通じて、一定の利益コントロールができる
- 決算期をずらすことでキャッシュフローの調整がしやすくなる
もちろん、過度な利益操作や実態のない取引は税務上否認されるリスクがありますが、適正な会計処理の範囲内であれば合法的な税務戦略として機能します。
不動産業に特化した経営体制の構築が可能
不動産業は、営業・仕入・売買契約・融資交渉・宅建業免許の取得・コンプライアンス対応など、建設業とは異なる専門的なスキルや人材が求められます。
既存の建設会社の中に不動産部門を設けると、どうしても建設寄りの体制や社内文化が足かせになる場合があります。新たに法人を設立すれば、不動産業に最適化された人員配置・意思決定・評価制度を導入しやすくなります。
また、不動産会社としてブランディングすることで、顧客や金融機関からの信頼を得やすくなるというメリットもあります。
宅建業免許の取得がスムーズに
不動産業を営むには、宅地建物取引業(宅建業)の免許が必要です。既存の建設会社に追加事業として登録することも可能ですが、以下のような制約が出てきます。
- 宅建士の専任性(常勤要件)を満たす必要がある
- 事務所の使用権限や表示義務、独立性の確保
- 事業目的への追加登記と定款変更
新設法人であれば、最初から不動産業を前提とした体制で準備できるため、免許取得までの手続きが効率的かつスムーズです。特に、宅建士の配置や事務所の使用形態を最適化しやすいのは大きなメリットです。
グループ内での資産・利益の再投資がしやすい
建設業と不動産業を法人として分けることで、グループ内での資産移転や利益の循環が明確になります。
例えば、
- 建設業法人が、不動産業法人の物件の施工を請け負う
- 不動産業法人が利益を出した場合、その資金を建設業法人への投資や貸付に回す
- 将来的に不動産会社を事業承継・売却する場合もスキームが柔軟
このように、グループ経営の自由度が増すことで、中長期的な事業戦略の幅が大きく広がります。
まとめ:長期的視点での法人分離は「攻めと守り」の両立に
建設業と不動産業は相互補完性のあるビジネスですが、それぞれが抱える特有のリスクや必要な体制も異なります。事業リスクの分散、税務戦略、経営体制の最適化、免許取得の効率化、グループ経営の柔軟性——これらを総合的に考えると、不動産業を新設法人で行うことは「攻め」と「守り」を両立させた最善の選択肢だと言えます。
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